「天野さんは、何かありました? 急に飲みって」
すると天野はちょっと困ったような顔をしてから言った。
「いや、ちょい役で、今日映画の撮影あったんすけど、監督に、調子に乗ってんじゃねえぞお前って怒鳴られちまって。何度もうちでセリフやって万全のつもりで臨んだんですけど、周りが見えてないって、尊敬する監督に呼んでもらえて有頂天になってたんですよね」
良太は、ああ、それはへこむかも、と頷いた。
「認めてもらいたい人にメチャダメ出しされるときついですよね」
「ええ。次で挽回しないと」
「でも、ちゃんと理由も言ってくれてるし、次は大丈夫ですよ。俺なんか、前も言ったかもですけど、俺に商品価値なんかないって、頭ごなしに言われましたもん」
根に持っているというより、工藤には結局そんな程度にしか自分の価値がないんだという事実が悲しいだけだ。
「工藤さんに? でも今は工藤さんの片腕って感じだって、広瀬さんのことあちこちで評価高かったですよ?」
それを聞くと、良太の笑みがゆがむ。
「俺、昔っから、よくがんばりました、って花丸つけてもらう子供だったんですよ。一生懸命やりましたねって。でも、よくできました、じゃなかった。今もきっとそう」
「やめてくださいよ、広瀬さんに自己肯定力低そうなこと言われたら、俺なんかやってられないですよ」
天野はじっと良太を見据えて真顔で言った。
「は、すみません。頑張って自分のことは肯定してるつもりなんですけど」
ドキュメンタリーの撮影もデスクワークだって十二分に頑張っている。
「でも、何の価値も求められていないのに頑張っても、独りよがりで独り相撲なだけですよね」
誰に認められても、工藤に認められないなら、頑張っても意味がない気がする。
何度も自問自答したことだ。
「広瀬さん、大丈夫です?」
「え?」
天野に覗き込まれて、頬が濡れていることにはたと気づいた良太は、慌てて手の甲でそれを拭い、グラスの酒を飲みほした。
「何か、ここんとこしゃかりきになってたから、変になっちゃったのかも」
ちょうどその時、良太のポケットで携帯が震えた。
取り出した携帯には工藤の文字があった。
「すみません、ちょっと」
良太はこれ以上醜態をさらす前にと立ち上がってレストルームの方へと移動すると電話に出た。
「今どこだ? 仕事か?」
「あ、いえ、今日は早く上がったので、天野さんに飲み誘われて。こないだ落とし物届けてくれたお礼もあって」
口にしてから別にそんな言い訳する必要もないのに、と良太は苦笑する。
「そうか。飲み過ぎるなよ」
いつものようにそこでぶちっと切れた。
「だから、俺の返事くらい……」
聞く必要もないのか。
何だかすべてが負の方向へ向いている。
「いいや、もう」
諦めきった言葉を口にして、良太はテーブルに戻った。
「大丈夫ですか?」
天野が心配そうに尋ねた。
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