霞に月の13

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「年々、素敵な花を咲かせてくれるようになりましたわねぇ」
 しみじみとした鈴木さんの言葉に、工藤もつられるように花を見上げる。
 平造が植えたばかりの頃は、まだ細々とした枝にちらほらと咲いていただけの桜の樹々が、いつの間にか幹も太く育ち、たくさんの花を咲かせて見下ろしていた。
 桜の花には何の罪もないのに、何年も避けて通ってきた工藤には、今ひどく斬新に清々しくさえ思われた。
「そうですね」
 工藤はようやくそんな言葉を口にした。
 こんな風に花をただきれいだと見ることができるようになったのは、やはり良太のお陰ということか。
 全く、俺など待たなくてもとは思うのだが、一途さにほだされないはずもない。
「何だ、ちゃんと花も楽しめるようになったじゃないか」
 小百合と一緒に小田がやって来て言った。
「余計なお世話だ。それより、佐藤製作所の件、うまく行ってるらしいな」
 秋山が地元の同級生に相談されて小田に相談した件で、時間がかかっているが、どうやら佐藤製作所社内で横領の罪に問われた滝沢の弁護を引き受けた小田が、加藤が代表を務める猫の手軍団の手を借りて、専務で社長の娘婿の佐藤彰吾の不正疑惑の証拠を手に入れ、滝沢の無実を法廷で暴くこととなった。
「ああ、警察もやっとまともに動いたし、加藤くんらが動いて手に入れてくれた専務一派が滝沢に罪を擦り付けた証拠があるからな。彼らにはほんと世話になった」
 どおりで小田もいつもとは打って変わって笑みを浮かべているわけだ。
「そういえば、平造の件も、世話になったな」
 工藤は小百合に言った。
「いえいえ、よくあることなんです。でも平造さん、ほんといい人やわ。子どもの時は苛められたような相手のことを供養したるやなんて」
「ああ、律儀なヤツだからな」
 工藤は苦笑した。
二人は暇を告げ、藤堂と浩輔も、まだ仕事があるらしく、小田らに続いて帰って行った。
「は? 海老原さんが、結婚?」
 その時良太は美亜の言葉に耳を疑った。
「そう、ロスアンゼルスで先週」
 海老原と言えば、美亜の兄であり、虎ノ門にある不動産関係の企業ランドエージェントコーポレーションのCEOで、かつ宇都宮と小笠原がダブル主演のドラマ『コリドー通りで』の撮影に使わせてもらったバー『Gatto』のオーナーだ。
 この海老原がまた曲者で、撮影の許可はくれたものの、何だかだと良太に絡んできた面倒な男だった。
「え、海老原さんが、誰と結婚したって言いました?」
 良太は再度聞き返した。
「だから、新ちゃんと二十年越しに」
「新ちゃんって、まさか、野口社長と?! ええええっ!!」
 驚いたなどというものではない。

 


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