霞に月の22

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「俺、何でも聞きますよ? 頼りなく思われるかもしれないけど、結構、軍でも周りのみんな、俺に話してくれたりしてたんですよ」
 にっこり笑って森村が言った。
 つられるように良太も笑う。
「ありがとう。俺の話なんてそう面白くもないし、まあ、時々、ひがみ根性でぶすくれてるだけだから」
 すると森村の笑顔がちょっと陰った気がした。
「そう? じゃあ、また話したくなったら、いつでも、俺、聞きますから!」
 店を出ると、地下鉄の入り口に向って走っていく後ろ姿を見つめて、良太は一つ溜息をついた。
「まさか、相談って、俺のこと気にしてたからとか?」
 だとすると森村に申し訳ない気がした。
 ダメじゃん、先輩失格じゃん、俺。
 まあ、そういや相談、じゃなくても、千雪さんにはひがみ根性丸出しでグチってるしな。
 そうだ、『検事六条渉』の会議の時、千雪さん連れていくし、また千雪さんにグチろっと。
 今頃くしゃみでもしているかも知れない千雪のきれいな顔を思い浮かべると、良太はクスリと笑った。
「明日の会議、大丈夫ですよね?」
 部屋に戻ると、念のために、良太は千雪に連絡を入れた。
 割と電源をオフにして所在をけむに巻こうとする千雪が、幸いにも携帯に電源が入っていた。
「明日? 何かあったっけ?」
 案の定、知らないふりで千雪は聞き返してくる。
「とぼけないでください。何なら、お昼ご馳走させていただきますから十二時に研究室の方へお迎えに上がります」
 明日は午前中、講義があると前に千雪から聞いていた。
「そんなわざわざええて。どこやった? 電車で行くし」
「とんでもない。先生にそんなご足労おかけできませんから。では十二時に研究室で」
 危ない危ない、千雪が自発的に来るのを待ったりしていたら、いつになるか、いやバックレられる可能性も無きにしも非ずで、千雪には十二時と言ったが、良太はきっかり十一時半には迎えに行くつもりだ。
 何なら、教室の前で待っている方がいいかも知れない。
 会議はMBCの本社会議室で午後一時半からなので、その前に食事をとれるよう、新橋駅近くにある割烹料理の店に予約を入れてある。
 二番町に本社があった本社は、近年一流企業本社が林立する一角に真新しい汐留タワーを建てて移転した。
 良太が青山プロダクションに入社した頃にはもう汐留だったが、独立した工藤もフリーになってからの下柳もMBCあたりにもちょくちょく足を運んでいたので、未だに二番町あたりに行きつけの店が多いらしく、いつぞや下柳と一緒に入った居酒屋では、同僚や関係者の常連客からよく声をかけられていた。
「美味いわ、これ」
 海鮮丼を一口二口食べた千雪は思わず頷いた。
 翌日の十二時には、講義が終わって千雪が教室を出てきたところを「お疲れ様です」とその腕を掴んで、和食処『かわむら』に連行してきた良太は、海鮮丼定食を前に「でしょう?」と得意げに笑った。
 


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