「クッソ、まんまと良太の姦計にはまってしもたわ」
食事を済ませてMBCへ向かう車の中で、後部座席の千雪はボソリと言った。
「何ですか、その言い方、人聞きの悪い」
「美味いもんでつられる俺も俺やけど。ちゃっかり着替えまで用意してきとるし」
千雪は大学での上下ジャージを良太が用意してきたスーツ一式と靴に着替えざるを得なかった。
「じゃないと、千雪さん、何だかだ理由つけてバックレる気ありありだし」
フン、と千雪は運転席の良太を見やる。
「工藤さんは?」
「今日は大阪です。明日の午後までには戻ると思いますが」
「寂しんや、良太」
ダイレクトに言われて、良太は一瞬言葉に詰まる。
「別に、いつものことですから」
「あんなあ、寂しんなら寂し、言うたったらええんちゃう? たまには工藤さんに。良太抑え過ぎ」
ふう、と良太はため息をつき、「俺と工藤さんは、千雪さんと京助さんとかとは違いますから」と言う。
「んん? なんやそれ。またメンドイこと考えとるんやろ?」
「ほら、着きましたよ」
ちょうどタワーの入り口に差し掛かったので、良太は千雪の問いには答えず、駐車場に車を停めると、良太は千雪を伴ってエレベーターで会議室のある二十階へと上がる。
「今日は、主演の山内ひとみさんと刑事役の天野さんもいらしてます。結構このドラマにはチーフプロデューサーの黒田さんも力入ってるみたいで」
「ふーん、小難しい法律用語が出てくるメンドイ話やのに」
黒田が実はこの『検事六条渉』のかなりなファンということもあってか、ありきたりなサスペンスドラマにしたくない、昨今の韓国ドラマに負けぬ展開がスピーディで深みのあるものにしたいと熱弁をふるうと、山内ひとみを自社のCMキャラクターにしているスポンサーの美聖堂広報部長も六条渉役は山内ひとみ以外に考えられない、彼女の美しさと知的さを存分に出して暗くなりがちな法廷シーンなども華やかさをぜひ取り入れてもらいたいなどと言う意見を出し、同じくスポンサーの東洋商事広報室長も、制作費を惜しんで小さくなるようなドラマにはしないでほしいなど、それぞれの立場からの発言が飛び交った。
山内ひとみは常日頃良太に接する時のような美魔女的な雰囲気を押し隠して、きりりと背筋を伸ばして臨んでいた。
天野右京は相変わらず武士のようは強面で目力もきつく発言者を睨み付けるように見ている。
「原作者の小林先生は、このシリーズで特に描きたいと思われたのはどのあたりになりますか?」
こういう質問を受けたくないので、千雪は制作側の人間とは関わり合いたくないと思うのだ。
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