「このシリーズの主人公である六条渉は、幼い頃に家族を強殺されるという凄惨な経験を持っているので、罪を犯した人間に対して極端な憎悪を抱いています。ともすると非情に被告人に対して厳罰を与えかねない自分と常に闘っているというような深い闇があります。また六条に限らず、刑事の四ノ宮や法医学者の美並もそれぞれに闇を持ちつつどう生きているか、というところでしょうか」
千雪はとりあえずもっともらしい発言をしたのちに続けた。
「ですが、ドラマにされた時点でもはや私の手を離れた物と考えておりますので、制作側の皆さんがどのように取り扱うかに関しては意見をはさむところではありません」
自分の原作がドラマや映画になった時点で手を離れたと考えているというのは、初めて工藤が千雪の原作を映画にした時からかわらない千雪のスタンスだ。
これまで原作の映画化などで、工藤が設定したインタビューで多少発言したりはあるが、実際、制作陣を前にして千雪が発言したのはほぼ初めてだろう。
どうやら制作陣の中には、世の中の小林千雪像からして、訥々と言葉少なにしゃべるイメージだろうと思い込みをしていた者が割といたようだ。
会議が終わった後、小林千雪って、あんなきっぱりぴしゃりとモノを言うんだ、などと言う声が良太の耳にも聞こえてきた。
「大学で講義も持ってるんだから、当たり前でしょうが。認識不足ですよね」
車で千雪のマンションに向いながら、良太は少し怒りを含んで言い放った。
「俺の講義も取ったことあったんやな?」
「え、ま、あ、一応………」
そこを突っ込まれると、良太には分が悪い。
何せ、野球ファーストだった良太は、卒業するため、単位を取るためだけに出席していたというのが本音だからだ。
「ってか、あの頃、千雪さん、てっきりあのまんまの先生かと思うじゃないですか」
千雪は笑った。
「五時か。良太、この後、仕事?」
「いえ、今日は珍しく、差し迫った仕事はないんで、デスクワークで終わりです」
「ほな、その後飲みいかへん?」
良太は、えっと、助手席の千雪を振り返りそうになった。
「ああ、今日は背後霊いないんだ。いいっすよ? どこか行きたいとこあります?」
背後霊こと千雪の相方として知られる綾小路京助はどうやらまた学会か何かでいないのだろう。
「俺はそう店とか知らんし、何なら、良太の部屋でタク飲みでもええで?」
「へ? 俺の部屋? 猫いますけど」
「猫も犬も好きやで?」
「いや、全然俺はかまいませんが、都合のいい時間に迎えに行きますよ」
滅多にない展開に、良太は先日も森村と食事に行った時に、いろいろ心配されたことを思い出し、また、千雪の前で何かやったろうか、と思いをめぐらす。
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