「あ、まさか、締め切りが迫ってて、バックレようとか思ってます?」
「フン、残念ながらギリで間に合うたわ」
「そっすか? だって時々、携帯切って編集さんやり過ごそうとかやってるじゃないですか」
前科があるから千雪の言葉を鵜呑みにすると危ないこともある。
「シルビーの散歩に行くだけやし。七時くらいでええで?」
「わかりました。シルビー、今日はお留守番ですか」
二人がアメリカ留学から帰ったあと、もともと千雪が人から預かった犬だったらしいが、京助も千雪も可愛がっているハスキー犬だ。
もともと人懐こいシルビーだが、猫にも犬にもなぜか親し気に寄って来られるという得意技? の持ち主の良太には、目を輝かせて尻尾を振ってくれる。
二人して遠出をする時には、必ずシルビーも一緒に連れ歩いている。
もともと猫は状況が変わるのが苦手だというし、小さい頃から慣れていれば別だろうが、良太の場合あまり連れ歩くわけにもいかない。
それに関しては、会社の上に住まいがある今の環境は良太にとっても猫にとっても好条件だ。
というのも、ペットシッターを頼むより、鈴木さんが猫たちの世話を率先してやってくれるからだ。
「シルビー良太のことお気に入りやから連れてってもええけど、猫いてるからな」
「ああ、遠慮しときます。ナータンらびっくりしますし」
半分本気で言っている千雪に、きっちり良太は固辞した。
七時にマンションに迎えに行くと、エントランスで千雪は待っていた。
「つまみとかいろいろ買うてきた」
袋を両手に提げている千雪は後部座席に乗り込んだ。
「ありがとうございます」
ああ、この人、コンビニで売ってるつまみとかじゃ、ダメな人だっけ。
千雪は食が極端に贅沢なのだ。
何せ、下手をすればその辺の店の料理人が裸足で逃げ出すくらいな腕の京助が相方であるから無理もない。
「千雪さん、京助さんいない時、食事はどうしてるんです?」
「大抵、タッパに作り置きしてあるし」
「ああ、そうですか」
聞いただけ無駄だったようだ。
「すみません、狭いですけど」
良太は千雪を招き入れると、「適当に座っててください」とスーツを脱いでジャージの上下に着替えた。
「案外きれいにしてるんやな」
千雪は炬燵に脚を突っ込んで座ると、買ってきたものを袋から出した。
「猫ら、知らん奴が来よった思て、タワーに上っとるわ」
良太がタワーを見ると、こいつ、誰だ? とでも言いたそうな顔で猫たちはじっと見つめてきた。
「炬燵切ってるけど、もし寒かったら入れて下さい」
千雪が持ってきたのは、缶ビールとワインだ。
明太子パスタや海鮮サラダ、ローストビーフにモッツアレラチーズとフルーツトマトの重ね焼き、ブルーチーズなどのチーズ類と、つまみというより贅沢なお惣菜が並んでいる。
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