「ああ、優勝候補のO高の清水選手でしょ? 上から投げ下ろす豪速球、あれはなかなか打てないみたいで」
確かに近年の高校生はでかい子が多いと良太も思う。
まあ、プロ野球選手も、沢村や八木沼など一九〇超えだし、何であれでかいのは得だよな。
「俺ももうちょい、身長あったら、プロ野球選手になってたかも………なんちって」
結局一八〇センチを超えることはなかったが、先日測ったら一七九センチだった。
何度も測ったから確かだ。
たかが一センチだが、大学卒業時より一センチ伸びているということは良太にとっては重大事だ。
あの、小説家の小林千雪も一八〇あるって言っていた。
森村も目線が微妙に上にある。
「あら、良太ちゃんは可愛いからいいのよ」
鈴木さんがのたまった。
自分のデスクに戻った良太はハハハと空笑いしてちょっと小首を傾げる。
「今年ももう花の季節になったわね。また皆さんお呼びするんでしょ?」
鈴木さんが裏庭の方を見て感慨深げに言った。
「そうか、そろそろですよね」
会社の裏庭で花見の会をやるようになってから数年。
裏庭は軽井沢の平造がたまにやってきて丹精込めて世話をしているが、桜は年々立派になってきており、花の盛りには飲み会をしないでどうするとばかり、社員や知人友人が集うようになった。
お花見お花見、と最初に騒いだのは青山プロダクション所属俳優中川アスカだった。
会社の嘱託カメラマン井上が、今年も早々にライティングを施している。
花の開花が報道されたのはつい先日のことだ。
「満開は二十四日か二十五日ってとこですか、今年は」
この裏庭の桜は若干遅咲きなので、他の桜が散りかけた頃にゆっくり見ることができる。
「そうね、お天気も良さそうよ。その頃には工藤さんも帰ってらっしゃるでしょ?」
「ええ、東京にいるはずですよ」
以前は桜の頃にはいつも東京を離れていた工藤だが、花の宴をやるようになってから工藤はムリムリ良太に促されて顔を出すようになった。
去年はたまたま平造がぎっくり腰で入院したと聞いて軽井沢に飛んで行った良太を追うように工藤も軽井沢を訪れ、別荘の大きな桜がちょうど満開の頃に重なって二度目の花を見ることができた。
かつて恋人が花の頃に亡くなったことで工藤は桜を極端に避けていたという。
そういう大切な人のことを忘れられないのは仕方ないけどさ。
工藤の思いを考えると何だか良太の方が辛くなってしまう。
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