「それはまあ、わからんでもないけど。せや、最近法医学研究室にアメリカから来はった准教授が、工藤さんにちょうどええかもて」
「おや、そうなの?」
「それと、桐島の友人のバイオリニストが美人で陽気なんですわ」
「へえ、なるほど、異業種交流会だ」
「工藤さんと良太にそれぞれ誰ぞが近づいてみた時、二人はどう出るか」
千雪の科白にまだ少し引き気味ではあるものの藤堂は、「わかった、やってみようじゃないの」と決意表明した。
千雪から良太に連絡が入ったのは、工藤と一緒にオリジナルドラマ制作の会議にネットプライム東京本社に出向いた帰りのことだった。
ちょうど会社に戻って来て車を駐車場に止めた時、携帯が鳴った。
「あ、お疲れ様です」
「何や、今日は元気やな、良太」
「え、わかりますか? いや、今日会議に顔を出してきたのが、かなり面白いプロジェクトで、ワクワク感が抜けないっていうか」
すると千雪は一瞬言葉を噤み、「そらよかった」と言った。
「工藤さんは?」
「それが、今朝急にアポが入って、ほら、去年の夏、軽井沢で紫紀さんに紹介された京浜ホールディングスの会長さんとこれから会うらしくて」
「ふーん、そうなん」
「初釜の時はただ顔合わせただけだったけど、それから一度、会社に連絡があって工藤さんに会長さんが会えないかって話だったんですが、工藤さん、オーストラリア出張だから無理だって断ったんですよ。だから、これは縁がなかったかと思ってたんですけど」
「へえ。あの人、浜村さん、割と温和な雰囲気やけど、誘われて断ったりしたら終わりやて周りによいしょする人が多いらしいで。それを断ったいう工藤さん、さすがやな」
意外な話を聞いて、良太は「へえ、そうなんですか」と答えた。
「そのどってことないて返事、良太、やっぱ工藤さん踏襲しとるわ」
「だからやめてくださいって、そういう……」
「ま、それはええわ。藤堂さんに話通して、例の異業種交流会、進めるで。工藤さんに絶対参加させるために、紫紀さんから誘ってもらうし、スケジュールしっかり教えといて」
それを聞くと良太はえっと口にした。
良太としてはせっかく工藤と一緒にやり応えがありそうなプロジェクトに参加できることに喜んでいたところに、いきなりリアルな難題を思い出させられた気がした。
「わかりました」
工藤とのぬるま湯に浸かっているかのような関係に危機感を覚えたのは確かなのだ。
自分はそれでいいかも知れないが、工藤のことを考えたら、やはりそれでいいわけがない。
いずれにせよ、もう走り出してしまったらしい企みを、今さら撤回するわけにはいかないだろう。
千雪はそう遠くないうちに決行すると言った。
それまでに覚悟を決めておかなくては。
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