霞に月の81

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 すかさず森村が背後から腕をねじ上げて銃を取り上げ、男を床に蹴り倒して銃をその頭に突き付けた。
「女性はどこだ?」
「てめぇ、何もんだ!」
「吐かないと撃つ」
 男の耳元でセイフティレバーが外れる音がした。
「や、やめろ! 俺は知らねぇ! 中国の船がどうとか聞いただけだ!」
 一見して細身の森村だが、抑え込まれた男は息も絶え絶えに身動きができない。
 そのうち男はガクッと頭を落とした。
「モリー、そいつ、大丈夫か?」
 加藤が思わず聞いた。
「平気、気絶してるだけ」
 森村は銃からマガジンを外して放り、銃も放ると、緩んだ革手袋を直した。
「携帯が潰されとる」
 千雪の言葉に森村と加藤が振り返った。
「それ、俺の携帯だ!」
 森村は千雪の手にしている携帯の残骸を見て声を上げた。
「良太さんに預けたヤツ。設定してもらおうと」
 千雪から残骸を受け取った森村は言った。
「良太もここにおったいうことや。おそらく、良太はこいつらから自分の携帯を奪われないように、ちょうど持ってたモリーの携帯を渡したんや」
 三人は倉庫を後にして、将太と辻の後を追った。
「本牧埠頭だ」
 千雪の運転する車の助手席でパソコンを見ながら加藤が言った。
「中国の船とか言ってたな」
「出航する前に二人を連れ戻さなあかん」
 ちょうどその時ブルートゥースでハンズフリーにしている携帯が鳴り、同じく加藤の仲間である山倉と白石から連絡が入った。
「本牧埠頭に集合や」
 千雪が二人に返事をした。
「本牧、俺らの庭じゃねぇか」
 加藤が俄然目を眇めた。
 だが、相手がどれだけいるか、銃なども持っていそうだと考えると、五人では心もとない。
 モリーはおそらく波多野に既に連絡を入れているはずだが。
 まあ、少人数の方が動きやすいいうこともあるか。
 千雪はいろいろなシチュエーションを考えながら、アクセルを踏んだ。
 その頃、良太と連絡が取れないのを不審に思った工藤は泊る予定だった名古屋のホテルからタクシーを飛ばして高輪に寄り、乃木坂に車を走らせていた。
「え? 良太ちゃんですか? 何だろう、俺も連絡取ってみます」
 秋山も本当に知らないようすで、かけ直して来たが、やはり連絡が取れないという。
「それとなく谷川さんや小笠原にも聞いてみましたが、知らないそうです。小笠原によると、いつのまにか現場から消えていて、森村に聞いたら急用で別の現場に行ったという話なんですが、本人と連絡が取れないのはおかしいですね」
「そうか、何か連絡が入ったら知らせてくれ」
 秋山に電話でそう言った時は十一時過ぎだった。
 それからタクシーを飛ばして四時間、既に午前三時を回っている。
 もしやまた熱でも出して寝込んでいるのかも知れない。
 無理やりにでもそう思いたいところだったが、工藤の頭の中で嫌な予感が徐々に大きくなってくる。


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