風そよぐ104

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「その時、工藤さん、本谷に、良太と付き合ってるって言わなかったわけ?」
「いや、それは、立場的にも言わないでしょう」
「工藤さんが相手がいるとかっても言わなかったわけ?」
「まあ……」
「何よそれ! だから本谷、まだ諦められないで、恋心を持て余してるんじゃない! しかも工藤さんはドラマのことで本谷を心配してるのに、本谷の方は、工藤から声かけられて舞い上がっちゃってると」
 恋心、とか、簡単に言ってくれちゃうし、と良太は自分のことのように少し頬を熱くする。
「や……でも、ひょっとしたら、それだけじゃないのかな、とか。ここんとこ東京の方は俺に丸投げ状態だし、最近、話すとかってのもほとんど業務連絡で、いわゆるフェイドアウトっつう………」
 結局良太はそんなことまで吐露させられてしまった。
「何、ひょっとしたら、工藤さん本谷とこっちでよろしくやってるんじゃないかって? それで良太は宇都宮さんに乗り換えようってわけ?」
「は? 何でそこに宇都宮さんが出てくるんです?」
「だって、宇都宮さんとこで鍋やったんでしょ? その時に、宇都宮さんの部屋に引っ越すって話になったんじゃないの?」
 ひとみからの情報らしい。
「え、いや、だって、それは、宇都宮さんがすんげく広い部屋に一人だからって、そんな話も出ましたけど、俺、酔った勢いで引っ越そうかなんて言っちゃったみたいだけど、まさか。確かに、俺、もし、工藤が本谷とそうなら、仕事は仕事だからきっちりやるけど、いつまでも工藤の恩情に乗っかって、部屋をタダ同然で借りてるわけにはいかないなって、そう……。それに俺ももうアラサーで、ちゃんと地に足つけて、独り立ちしないとって思って」
 アスカはハハハと空笑いする良太をじっと見つめていたが、あのさ、と長い脚を組みなおした。
「前から言ってるけど、良太、あんた甘いのよ! 宇都宮さんってゲイじゃないけど、そういうのてんで気にしない人みたいだから。きっちり、あんた、ターゲットにされてるじゃない!」
「え、嘘……」
「それに、なんで工藤にきっちり本谷のこと聞かないのよ?」
 良太は難しい顔で目の前のグラスを睨み付ける。

 


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