それができればとっくにやってる。
「それって、工藤に、俺ってあんたの何なんだって? でも答えはわかってる。俺、ただの部下だし。別に何の約束してるわけじゃないし。それに工藤と本谷、ほんとのところなんてわかんないし、人の気持ちなんて、俺がぎゃあすか言ったところで、変わるもんでもないっしょ」
するとアスカははあ、と大きく息をついて、「何よそれ」と言った。
「でもほんと、俺と工藤って、俺がぎゃあすか言わなければ、それだけのことで、しかも工藤が本谷に興味を持ったんなら、仕方ないし」
ムッとした顔でアスカは腕を組んだままソファにもたれかかった。
確かに、ここのところ工藤が本谷をやけに気にかけているのに気づいていた。
それは、本谷の科白を聞かなければ、ドラマのことだけだろうと思っていた。
マネージャーがもう一人抱えている面倒くさい女優にかかりきりで、本谷が新人らしくないしっかりした雰囲気のせいで、本谷を放りっぱなしにしていることもあった。
いくらしっかりしてるっつったって、この業界じゃ新人なんだから、そこをフォローしなくてどうするのよ、とアスカも思っていたくらいだから、工藤も何かにつけ本谷を気遣っているのだろう。
にしたって、この良太の後ろ向き加減は尋常ではない。
それこそ本谷を攻撃していた竹野を良太が直球でやり込めたのは、見ていたアスカとしてもすかっとしたのだ。
周りには目が行くのに、自分のことになると、直球良太がちっとも出て来やしない。
「にしたって、ちょっとアラサー、とか言うのやめてよね、あたしの方が一つ上なんだから」
「だって事実ですし」
ほら。
人のことははっきり言うくせに。
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