風そよぐ109

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「あたしが聞いた高広のろくでもない科白の中でも最低だわそれ」
 さすがに周りを憚って、ひとみは声を落としてそれでも憤りを含んだ言葉を放つ。
「もともと俺みたいな男の後を追ってきたところで、それこそろくでもないだけの話だ。宇都宮なんかの方が色々面倒をみてくれそうでいいんじゃないのか」
 工藤は鼻で笑う。
「ばかみたい。捻くれて拗ねたような言い方して。あんたがそんなだから、良太ちゃん、あんたの恩情にいつまでも甘えていられないとか、引っ越そうかとか、独り立ちしなけりゃとか、そんなことまで言い出したのよ」
 やはり良太は肩代わりした負債にずっと負い目を感じているのだと、工藤は改めて思う。
「いつまでもそんな負い目を引きずってまで俺のところにいる必要はないさ。辞めたいんなら肩代わりした金を引いたって退職金は十分つけてやるし、俺のところでなければ良太ももっと自由にやりたいことをやれるんじゃないのか」
 例えば宇都宮なら、あいつを別な形で羽ばたかせてやれるのかもしれない。
「呆れた、あんたほんと何もわかってないわよ、高広」
 険しい顔でひとみは工藤を睨み付けた。
「俺はもう二人も殺してるんだ、さすがにもう勘弁なんだよ」
 ふっと工藤が漏らしたのはおそらく本音なのだろうとは、ひとみも察した。
「何言ってるのよ、またそんな大昔の話を。ちゆきさんだって、村田ゆかりだって、高広が責任感じるようなことじゃないじゃない」
「俺が関係ないわけがないだろう。良太にしたって、一度は殺しかねなかった。お前も知ってるはずだ」
 それだけではない。
 表では俺がヤクザとは縁を切っていると言い張っても通用しないバカな連中がいる。
 工藤はTと名乗った男を忘れたことはない。

 


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