風そよぐ110

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 裏で、俺の預かり知らないところで動いている者もいるのだ。
 工藤はいつぞや車で襲われた時のことを思いだしていた。
 その時、ひとみのバッグで携帯が鳴った。
 アスカからのラインで、工藤の様子を聞いてきたのだ。
 良太がやつれてるのは、工藤が本谷に乗り換えたとすっかり思い込んでいるからだ、と知らせてきていた。
 案の定である。
「いつまでも昔のことを引きずって、ほんっとにバカ、高広」
 業界では鬼と言われた工藤の逡巡をまたぞろひとみがぶった切る。
「忘れろとかどうでもいいとかって言うんじゃない、それより今、生きて、あんたのことを思ってくれる存在をないがしろにするなって言ってるのよ」
「教科書のような正論だな」
 既に工藤の手の中のグラスも空になっていた。
「茶化すんじゃないわよ! 仕事に疲れ切ってるところへ、あんたが本谷本谷って、あの子のことばっか追いかけてるから、良太ちゃん、高広が本谷に心変わりしたんだと思い込んだからじゃない」
「俺が本谷を追いかけた? 何を言ってるんだ」
 苦々しくも意外そうに工藤が聞いた。
「あら、こっちに来て高広を見てて、あたしもてっきりそうじゃないかと思ったわよ。珍しく何度も収録に顔を出すし、と思ったら本谷呼んで二人でこそこそ」
「何がこそこそだ」
 工藤はそこで一つ息をついた。
「本谷が必要以上に今までと勝手が違って役に思い悩んでいて、空回りして撮影が滞るのを山根が相談してきたんだよ」
「それはわかるわ。でもそれだけじゃないでしょ? 本谷、高広にラブらしいじゃない。告られた?」
 工藤はひとみを見た。

 


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