風そよぐ120

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「ひどいな、千雪さん。いや、ほんと、本谷、ヒントで途端によくなってたから、もう大丈夫ですって」
 まだ半信半疑のような眼を千雪は良太に向けた。
「あ、でも、こないだ、テレビに最初に出てきた人で、とかで決めたってのは、俺ら二人だけの胸の内に収めといてくださいよ!」
「良太、お前、俺をおちょくってるな?」
「滅相もない!」
「そのセリフからしてお茶らけてるし、まあ、ええわ。その話は墓場まで持ってくで」
 そういうと千雪はようやく、夏らしいガラスの器を取って、並べられたおたべを黒文字で割って食べる。
「あ、美味いなこれ」
「そのことで来たんですか? わざわざ」
「ああ、いや」
 千雪はお茶を飲んでから続けた。
「一度は撮影にも顔出せとか、工藤さん、言うてたやろ?」
「そうですね、京都は今週末、金曜日に撮影が終わって、日曜日からこっちで収録なんですが」
「日曜もないんやな、撮影て」
「まあ、ね、日曜の早朝ロケがあるんです。あとはスタジオかな」
「親父の法事があるんや、土曜日。そんで金曜日に京都いくつもりやねんけど」
 そういえばこの人も天涯孤独の人だっけ。
 父親って確か、古典文学の権威とか。
 良太は千雪のプロフィールを思い起こした。
「そうなんですか。撮影、結構七時くらいまでやってるはずなんで、顔出していただけるんなら、工藤に連絡しておきますが」
「ほな、伝えといて」
「わかりました。新幹線で行くんですか?」
「京助が車で行くてきかんから、こっちを十時には出なあかん。ワンコ連れやしな」
 やはり京助が一緒なんだな、と良太は改めて思う。

 


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