「流は過密スケジュールでさっさと東京に戻っちゃったし、まだ工藤さんも来ないし、さみしい打ち上げだったのよ」
千雪は隣のテーブルの山根や久保田、須永と秋山にちょっと目礼してから、アスカらのテーブルで空いている本谷の隣に腰を降ろした。
「お邪魔します」
千雪が座るとすぐに店のスタッフが飲み物を聞きにきた。
「ほな、ワインをお願いします」
秋山が驚いていたように、千雪は素のままだった。
ただ、このドラマのスタッフとは顔なじみで、山根や久保田も面白がって暗黙の了解が成り立っている。
千雪の前にワインが置かれると、「じゃあ、もう一度乾杯!」とグラスを掲げるアスカに本谷も慌ててグラスを鳴らしたが、突然現れた千雪にどう対応していいかわからず戸惑っていた。
まもなく千雪の前に料理が運ばれた。
「豪勢やな、俺、京都に生まれていっぺんもこんなん食うたことないで」
「どうせ工藤さんだから、平気平気」
「ああ、ほな、遠慮のう」
千雪はここに来た当初から、アスカの通る声が聞こえていて、本谷をいじっているらしいのがわかり、あーあ、と心の中で溜息をついた。
そもそもはちょうど良太が東京に戻った日、研究室の千雪にかかってきたアスカからの電話が始まりだった。
「ああ、京都? 実は週末やったら行けそうかもて。工藤さんからも再三、顔を出せ言われてたし、親の墓参りしたりて思てるんやけど」
しかしアスカが電話をしてくる時には、必ず何かあるとふんでいる千雪は、注意深く応対した。
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