風そよぐ128

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 工藤が来たら、工藤のところに行って、何か訳ありな話をしているように本谷に思わせる、というアスカの筋書きにのっとって、千雪は立ち上がって工藤のところに行った。
「お前、何してるんだ? こんなところで」
 唐突に素のまま現れた千雪に、工藤は訝し気な顔を向けた。
「それはないですやろ。さっき撮影覗いてきたし、アスカさんからここで打ち上げしてるから来いて言われて」
「本谷もいるだろう」
「今更ですわ」
 苦々しい顔のままテーブルに現れた工藤に、「ほんとにお疲れって顔ねぇ、高広」と既にかなり飲んでいるひとみがへらっと笑う。
「もうできあがっているのか。須永を困らせるほど飲むなよ」
「お疲れ様です」
 確かに、工藤と恐ろしいほどの美形に変貌した千雪が何かありそうな雰囲気だと思った本谷だが、工藤を見ると、やはり心が浮ついてしまうのをどうしようもなかった。
「このウワバミどもに付き合う義理はないからな、お前は」
「失礼ね、それ」
 アスカが抗議するが、工藤は意に介さず、秋山たちのテーブルに混じった。
「工藤さん、あんな顔してるけど嬉しいんじゃない?」
 千雪が席に戻ると、アスカが声を落としてそんなことを言った。
「さあ」
 人の心を操るようなマネは、千雪はあまり好きではない。
 だが、良太のことを考えれば、仕事も絡んでいるし、本谷に事実を告げるわけにも行かないだろうから、こんな小芝居で本谷が工藤を諦められるのなら、それに越したことはないのかもしれない。
 でも、ひょっとして良太は、やはり工藤のことを信じ切れずにいるのかもしれない。
 だから何も言わずに自分が逃げようとしているのではないかと。

 


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