逃げたとしても思いが消えるものではないのに。
何となく千雪は、良太の心がわかるような気がした。
その時、アスカがまた入り口を見て、あ、と声を上げた。
その表情からあまり歓迎しないものを感じて、千雪は振り返った。
入ってこようとしている男を認めて、千雪は立ち上がった。
「ほな、俺そろそろ、帰るわ、仕事あるし」
「あら、もう行っちゃうの?」
ひとみが言った。
「たまには実家にも風とおさんとあかんし」
千雪は帰り際、「ほな、頑張ってや」と本谷に声をかけると、そそくさと部屋を出た。
「何で来たんや、京助」
「俺も混じろうと思ったのに、帰るのか?」
「やから、面倒おこさすな! アホ」
念のために、アスカの作戦のことは京助にも話しておいた。
この男は、工藤が絡むと未だに面白くないらしい。
「帰るで」
千雪は京助がアスカの計画をダメにする前に店から連れ出した。
「お前が首突っ込まなきゃならないことでもないだろう」
京助は駐車場に停めていた車のロックを外した。
「首突っ込むいうほど突っ込んではないけど、良太のことは放っとおけんしな」
ナビシートに乗り込んだ千雪は、そういうと少し考え込んだ。
「とにかく、腹が減った。どっかで何か食って帰ろうぜ」
エンジンをかけると、「せっかく来たんだ、明日は比叡山の方まで行ってみるか」と言いながら京助はハンドルを切った。
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