千雪が帰ると、工藤は千雪のいた席に来て座った。
「とりあえず、京都の収録は終わったが、明後日はまた早朝ロケだ。アスカ、気を緩めるなよ」
怒涛のようにやってきた千雪がまた怒涛のように帰ったかと思ったら、工藤が隣にきたことで、本谷はまた固くなっていた。
ひとみはそれが手に取るようにわかって、本谷が可哀そうでしかたなかった。
それもこれも、高広が思わせぶりな態度をとるからじゃない!
斜め向かいから工藤を睨み付けるものの、工藤の方は全く頓着していない。
「あ、あの、びっくりしました。小林先生がまるで別人で、あんな、綺麗な方だったなんて」
本谷は俯きがちにそんなことを言った。
「ああ、まあな、人にはそれぞれ、何だかだと厄介を抱えているもんだ。まあ、千雪は極端だが、そっとしておいてやってくれ」
アスカは工藤が千雪に対しては、かなり保護者的な態度になるのがわかっていた。
以前、良太がそうだったように、千雪を守ろうとするかのような工藤の言い方は、誤解を招きかねない。
本谷の場合そっちへミスリードされてくれれば、この計画も概ね成功なのだ。
だって、可哀そうだけどさ本谷、しょうがないじゃない。
「工藤さんはまだ京都に?」
本谷が聞いた。
「ああ、俺も明日の夜には東京に戻る。おい、ひとみ、いい加減なところで切り上げろよ」
そういうと、工藤はまた山根らのテーブルに戻り、撮影の打ち合わせを始めた。
「ったくもう、呆れるほど仕事人間なんだから」
ひとみは工藤の背中を睨み付けながらボソリと言って、グラスに残っていたワインを飲み干した。
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