風そよぐ131

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 チラリと目が合ったひとみが、何か言いたそうな顔をしているのに、工藤もようやく気が付いた。
 おそらくひとみだけでなくアスカも、暗に良太のことを何とかしろとでも言いたいのだろうが。
 打ち合わせをしながらも、実は意識は良太に行っていた。
 ここに来る前にも、良太に電話をしたが、相変わらず業務連絡ですという態度で、取り付く島もない。
 第一、電話口で、ああでもないこうでもないと言い連ねたところで埒も開かないのだ。
 ひとみに言われなくても、本音を言えば良太を手放したくはない。
 だが、自分の執着が良太の行くべき道を曲げてしまうのではないか。
 そんなことを考えないではないのだ。
 ガキのイロコイなら、何も考えずに突っ走ろうがいいさ。
 フン、年を取れば、昔は突っ走ったこともできなくなるんだ。
 だが、宇都宮のことはどうにも許せないものがあった。
 良太が宇都宮を選ぶというのなら、致し方ないかも知れないが。
 明日東京に戻るとしても、高雄の明日の撮影は安倍晴明が現れる重要なシーンでもあり、撮影が終わるまで工藤が離れるわけにも行かないだろう。
 晴明の生まれ変わりというその役を依頼したのは能楽師の檜山匠だ。
 幼い頃から天才と言われながら主流から離れて一人新たな世界を造ろうとしている若手である。
 この映画の核ともなる晴明の登場を見極める必要があり、スケジュールさえ何とかなれば、良太にも見せておきたいところだったのだが。
 このところ互いに忙しすぎて、仕事上の話さえできない状況だ。
 少し、話をしなければな。

 


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