良太はいつになく気を引き締めて、広報室へと向かった。
指示された会議室に出向くと、中平をはじめとする広報部の面々だけでなく、東洋商事の幹部数名が三人を出迎えた。
藤堂が一通り説明を終え試写が始まると、皆が映像を静かに見つめていた。
終了すると、幹部も概ね好評といった表情がうかがえてこれで何とかいけると良太には思われた。
「いかがでしょう、ご意見のある方」
中平がテーブルを囲む面々を見回した。
「宮下さん」
はい、と挙手をした営業第一部本部長の名を中平が呼んだ。
「このままGOサインが出てしかるべき、クオリティの高い優れた作品であることは確かだと存じます。ただ……」
髪を緩めに結い上げた、ナチュラルメイクのアラフィフだが、ニューヨークから一年前本社に異動になった宮下は、穏やかそうに見えてきつい言葉もポンポン飛び出すというやり手だ。
以前良太は中平にそんな風に紹介されたことがあるが、少し話をして自分の母親のような親しみを感じた記憶がある。
そんな母親のような優し気な雰囲気で、宮下は続けた。
「せっかく、佐々木氏が携わっておられるのであれば、例えば、数年前の海外メーカーの車の広告宣伝を拝見しましたが、勢いというか、これは違うという何かを感じた方が多かったのではと。クオリティプラスアルファが何かあればと、あえて申し上げるのは、佐々木氏だからこそという思いでございますが」
駐車場まで降りてきた三人が、車に乗り込んで初めて、藤堂が口を開いた。
「まったく、広告デザインにつまりは芸術性を要求してどうするって、あれ以上必要か」
藤堂にして言葉の端々にきつさがあった。
「あれがうちのおかんやったら、このクソババァてリアクションやねんけどな。優し気に言わはるから、何も返せへんわ」
佐々木も疲労がいや増した感じで背もたれに寄り掛かった。
「しかし、数年前の車の広告宣伝て、ひょっとして」
藤堂の言葉を引き取って、ハンドルを握っていた良太が「こないだ能登でもりあがった、まさかの藤堂河崎組と佐々木浩輔組のガチバトル?」と声を上げた。
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