しいていえば、少しは身体を鍛えようと、リビングにマシンを入れたくらいだろうか。
商社でいやというほど人の裏の顔を見せられた秋山は、フィアンセにも逃げられたこともあって、かなりの人間不信になった。
今でこそ会社の人間とも世間話くらいするようになったが、わざわざ人の多いジムなどに出向く気にはなれない。
だが、会社で自然に話ができるようになったのは、良太やアスカのお陰だと秋山は思っている。
おそらく親の負債などなければ、こんな業界に足を突っ込むようなことはなかっただろう良太は、境遇の良しあしにかかわらず一本気で正義感が強い、それこそ鬼と呼ばれた工藤にでも食って掛かる怖いものなしなところがある。
アスカは我儘なお嬢様と思いきや、案外正義感が強くて、涙もろく、困っている誰かを見過ごせない情の熱い姉御肌だ。
突っ走ってやり過ぎるから二人とも目が離せないところはあるが。
「ったく、だから放っちゃおけないんだっての」
秋山は西麻布まで車を走らせると、『麻布住吉』の店の入り口が見えるがなるべく人通りの少ない細い通りに車を停めて、様子をうかがいつつ、二人が出てくるのを待つことにした。
刑事ドラマか探偵のような真似をすることになろうとは思わなかったが、少なくとも今は良太が心配だった。
「まあ仮に二人が親密になっているのだとしたら、馬に蹴られるのはゴメンなんだが」
秋山はひとり呟いて、フロントガラスから店を窺った。
サイドシート側のウインドウを少し開けているが、エンジンを切っているので夜とはいえ蒸し暑い。
「探偵やら刑事やらはよほど我慢強い人間じゃないと務まらないな。どおりで谷川さん、待つことを苦にしないわけだ。奈々ちゃんのマネージャー兼ボディガードは実に適任だ」
秋山は元刑事の谷川を思い浮かべた。
それにヤクザのお陰で刑事をやめさせられたと文句を言っていたが、第一線でやってきた仕事を辞めても妹の幸せを取ったということだろう。
妻子とも離婚はしたが、息子の結婚式にはちゃんと出たと言っていたし、逆に若手人気女優南沢奈々のマネージャーということで家族の間でも株が上がったらしい。
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