「まあ、俺もお嬢様のお守りは結構性に合っているのかも」
秋山はくすりと笑う。
商社マンのままでいたとしても順当に出世できたとは限らない。
それに逃げたフィアンセにしても上役の世話で決まった取締役の娘で、何もなければ彼女がどんな人間かも知らないでいた。
大手商社に勤めているのを自慢にしていた親とは疎遠になり、あれ以来実家のある松本にも帰ってはいないが、あまり気にしないようにしている。
地元の名士で旧家というのも、今では自分にとって煩わしいだけのものだし、結婚した弟が実家に入ったようだ。
濡れ衣だったとはいえ、警察沙汰に巻き込まれたような人間は秋山家の恥さらしと言い放った父親にもことあるごとに秋山家を振りかざしてきた母親にも、もう会いたいとも思っていない。
枷を外された自分だけの人生は、存外悪くない。
確かに、あの会社は何かあって入ってきたような者ばかりだが、そんじょそこいらのアットホームとは一味違う、いわば家族のようなものだ。
高校大学とエリート街道を我関せずで歩いてきた。
当時しか知らない者が人のためにこんなおせっかいを焼く秋山を見たら驚くだろう。
「おや、出てきたぞ」
宇都宮と良太が店を出て歩き始めたので、秋山も車を降りて二人の後を数メートルあけて歩いていく。
二人は和やかに話しているようで、時折良太が宇都宮を見上げて笑顔を向けている。
「何だかほんとに、馬に蹴られるケースなのか?」
秋山は独り言ちて行きかう人を縫って、二人を見失わないように追った。
やがて五分ほど歩いたと思うと、宇都宮が良太を促して左へ折れた。
秋山は足を速めて二人が入った路地を窺った。
するとペパミントという、ドアも鮮やかな色に塗られたバーへと二人は入っていった。
店の名前は聞いたことがあった。
芸能人やセレブが集うという店らしい。
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