良太は慌ててオーダーシートに手を伸ばしたが、宇都宮の方が早かった。
「ここは俺が誘ったんだからね」
たったか支払いを済ませてしまった宇都宮に、良太は「じゃあ、ごちそうさまでした」と礼を言う。
「そしたら酔い覚ましに歩いていこうよ」
ドアを開けると良太が外に出るのを待って、宇都宮は自分も外に出る。
奥のテーブルで良太は店内を背にしたように座っていたので気づかなかったのだが、その時ようやく、店内から宇都宮に注がれる主に女性陣からのうっとり視線を良太も感じ取った。
「やっぱり宇都宮さん、今の店でも注視されてたんじゃないですか?」
乃木坂方面へと歩きながら、良太は宇都宮を見上げた。
「ああ、もう、ね、気にしてたら食事も楽しめないし、プライベートの時はなるべく周りは見ないようにしてるからね」
それこそ注意して歩いていると、道行く人が振り返ったり、今の宇都宮俊治じゃない? かっこいい、などという声が聞こえてきたりする。
自分のことをオッサンなどというのだが、年齢より若く見えるし、やはり鈴木さんの言葉で言えば渋カッコいい宇都宮は、未だに人気俳優ベストスリーの中には必ずといっていいほど名前を連ねている。
「俺みたいな若輩者が僭越なんですけど、宇都宮さん、尾花沢さんよりはもちょっとまともな女性とならうまくいくんじゃないですか?」
くすくすと宇都宮は笑う。
「だよねぇ、でもさ、何ていうか、気持ちが先に相手に向いちゃうっていうか、そういうのってどうしようもないでしょ?」
「はあ、まあ、そうですね」
好きになるなんてそんなものだろう。
良太は自分の思いや、それに本谷の真剣な告白をつい思い出していた。
気がついたらそうなっていた、っていうやつだ。
そんな二人が店から出てくるのを、車の中でうとうとしつつも待っていた秋山が、車で追い越したのはそんな時だった。
おそらく乃木坂に向かうらしいとふんだ秋山は先回りして会社の駐車場に車を停め、馴染みの警備員には、お疲れ様と声をかけて会社を出たふりをして、木立の後ろに隠れて二人を待った。
「まあ、良太が部屋に戻るまで、見届けるとしよう」
会社の周囲はあまり人通りもないし、男が一人木陰に潜んでいても気づくものはいないだろう。
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