風そよぐ158

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 スタッフは真夜中から準備を進め、俳優陣もそろそろ現地に集まり始めていた。
 ドラマ『からくれないに』のロケが行われる渋谷区道玄坂に、良太が到着したのは朝の三時半を過ぎた頃だった。
 車を近くのパーキングに置いて現場に向かうと、既にどこから情報を得たのか、やはり本谷のファンらしき若い女性らがロケの現場を遠巻きにしつつもそこここに固まっているのが良太にも確認できた。
 邪魔さえしてくれなければ、ファンとは有り難いものなのだが、ところが当の本谷の姿がまだ見えなかった。
「おはようございます、本谷くん、見てませんか?」
 あくびをしているアスカと、傍に立つ秋山に良太は声をかけた。
「まだ見てないけど」
「寝坊したんじゃない?」
 アスカは事も無げに言い放つ。
「大丈夫よ、まだ一時間くらいは余裕だから」
「しかし集合時間は過ぎてますね。彼、今日も一人でこっちに向かってるんでしょうか」
 呑気なアスカの発言を遮って、秋山が言った。
「おそらく。タクシーを使うようには言ってあるんですが」
 顔合わせの日もちょこっと挨拶しただけですぐに消えてしまったのだが、マネージャーは担当しているもう一人の女優にかかりきりで、本谷はにはスケジュールを渡し、電話で指示だけをして、あとは本人に任せているというのが、実情らしい。
 本谷もこれまで一人で動くことも多いせいか、あまりマネージャーが構ってくれないことをさほど不便に思ったことがないようだ。
 良太は念のために本谷に電話を入れた。
 長くコールしたあと、本谷が出た。
「おはようございます。広瀬です。今、どちらですか?」
「……おはようございます、広瀬さん……えっと、今、起きたところですが、道玄坂に六時でしたよね?」
 案の定、本谷は勘違いしていたようだ。
「すみません、すぐにタクシー拾って向かってください。六時から撮影です」
「え!? すみません! すぐに向かいます!」
 本谷は会社員だった頃から世田谷の祖師谷に住んでいて、今まで小田急線を使って行き来していたが、最近CMなどでも人目に晒されることが多くなってから、ファンに囲まれたり追いかけられたりすることもあったりで、なるべく公共交通機関を使わないようにとマネージャーからも言われていたが、本人はそんなことはたまたまだからと、未だに電車を利用したりしているのだが。
「大丈夫かな。迎えに行った方がよかったかな」
 良太は時計を見ながら呟いた。
 スムースに来られればこの時間、早ければ約三十分だ。

 


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