風そよぐ159

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 空も明るくなりつつある。
 良太は時間を気にしつつ周囲に注意していたのだが、おそらく本谷のファンだろう女性があちらこちらで増えている気がした。
 やがてタクシーが到着し、本谷が降り立った頃には既に辺りはすっかり明るくなり、誰かが本谷に気づくと、タクシーの近くにいた女性ファンがどっと移動し、今にも本谷を取り囲むかと思われた。
 タクシーに気づいていた良太は本谷が降りるなりファンから庇うようにしてスタッフ陣が待ち構える現場へ連れて行った。
 衣装とメイクの係りの女性が慌てて本谷に駆け寄ると、ロケバスに乗り込んだ。
「ったく、新人が、重役出勤かよ」
「ちょっと人気が出るとこれだからな」
 スタッフ陣の中からそんな声が良太にも聞こえてきた。
 今日はアスカや脇の何人かとの撮影なので大澤流らはいないのだが、流がいたらもっと文句が出ていたかも知れない。
「ギリギリセーフじゃない?」
 アスカは余裕の科白である。
「何かあったのか?」
 アスカと横にいた秋山はその声に振り返った。
「いえ、別に。工藤さん、こっちに戻るのは昼頃かと思ってました」
「タクシーで来た」
 そう答える工藤の顔には明らかに疲労の影が見える。
「高雄は大丈夫ですか?」
「まあ、昨日の撮影は何とか終わったが、夕べ浅沼や日比野と桧山と打ち合わせで夜中だ」
「桧山さんもですか?」
 秋山は少し意外そうに尋ねた。
 『大いなる旅人』は第一弾から、工藤がまだキー局にいた頃からの知り合いでどちらも四十代の日比野が監督、脚本は浅沼が制作チームの柱となっているが、桧山匠は映画出演は今回が初めてという新進気鋭の能楽師だ。

 


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