そして、問題のシーンの撮影だ。
一時的に通行止めにして撮影を行っているのだが、信号を待っている本谷が何者かに背後から押されるというシーンでは、本谷が押されて声をあげ、前のめりに横断歩道に倒れ込んだところへ、俳優が運転するトラックが走ってくる。
とっさにアスカが本谷の腕を思いっきり引くと、トラックは辛うじてぶつかる寸前でハンドルを切り、怒号をあげ、クラクションを鳴らしながら走り去る。
カット、という声が響き渡ると、良太はほっと胸をなでおろした。
固唾をのんで見つめていた本谷のファンも、その声を合図にあちこちで動き始めた。
そして本谷がロケバスの方に歩いていくのを見て、追いかけようとするファンがいた。
すると、我も我もという感じで押し寄せてくるファンを、スタッフが「下がってください」と懸命に声を上げて静止する。
良太も声を大にして、「危険ですから下がってください」と声を張り上げた。
ロケバスの中でメイクアップの女性らやアスカと一緒におとなしくじっと座って状況が改善するのを待っていた本谷は、窓のカーテンの隙間から外を覗いた。
「わ、何か、どうしよう、これ」
「しょうがないわね、本谷くんの人気がすごいってことよ」
アスカは携帯をいじりながら何でもないことのように言った。
「貫禄ですね、中川さん。俺ちょっと怖いです」
「もっとすごいアイドルと撮影やった時は、さすがにいい加減にしてって思ったけどね」
しばらくそんな状況が続いたかと思うと、やがて通行止めが解除された頃、ロケバスに少しでも近づこうとするファンが数人、スタッフの静止を振り切ろうとして、そのうちの一人が歩道から車道に一歩足を踏み出してしまった。
その時車が突っ込んできたのだ。
「危ない!」
「きゃあ!」
悲鳴が上がる中、向いにた良太は倒れそうになっていた女性の腕を思い切り引っ張った。
間一髪、車はクラクションを鳴らしながら走り去った。
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