風そよぐ162

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 まるでドラマのようなそのようすに、本谷はロケバスの中で思わず立ち上がった。
「広瀬さん!」
 アスカも本谷の声に窓に駆け寄った。
「どうしたの!」
 向かいの歩道に女性と良太が倒れ込んでいるのが二人にも見えた。
 思い切り女性を引っ張った反動で二人とも歩道に倒れ込み、良太は街路樹の囲いに強か頭をぶつけた。
 周りはただ遠巻きに二人を見つめている。
「良太!」
 アスカは慌ててバスを飛び出した。
 いち早く、良太に駆け寄ったのは工藤だった。
「良太! おい! 退け! 救急車!」
 見守るばかりか、携帯で二人を撮っているような者もいる中、素早く救急車を呼んだのは秋山だ。
 救急車がやがて到着し、良太は中に運ばれ、工藤も一緒に乗り込むと同時に救急車はサイレンを鳴らしてその場を後にした。
 本谷はその一部始終をバスの中で見つめていた。
 秋山とスタッフが本谷のファンを退去させ、ロケバスや撮影用のバンがようやくその地を去ったのはそれから間もなくのことだった。
 バスに戻ってこなかったアスカは秋山と一緒に車で病院にいったらしいとスタッフが教えてくれた。
「広瀬さん、大丈夫でしょうか?」
「わからないみたいです。広瀬さんが助けた女の子はほとんど怪我もなかったみたいだけど……」
 メイクの女性が不安そうに言った。
 本谷は良太のことを心配したと同時に、一目散に良太に駆け寄った工藤のことが頭から離れなかった。
 すさまじい形相で、救急車と叫び、そして良太の頭を恐ろしく愛おし気に抱き抱えていた。
 怒鳴りつけたりはしょっちゅうだが、普段の工藤は怖い顔で何を考えているかわからない雰囲気だった。
 その工藤が、あれほど感情をむき出しにしたのを、本谷は初めて見た。

 


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