風そよぐ163

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 そのままバスでマンションまで送ってもらった本谷は、その日は撮影後は久々のオフになっていた。
 ここのところずっと忙しいばかりで、部屋には寝に帰るくらいだったが、たまにオフと言われても、大抵部屋でぼんやりしているか、洗濯くらいする程度だ。
 せめて二日三日休みがないと、なかなか掃除までやる気になれない。
 マネージャーの浜野は、お掃除ロボットでも買えばいい、などと言っていたが、床に放り出してあるものをまず片づけないことにはお掃除ロボットも動けないだろう。
 本や雑誌、脱いだ服、一つあるソファの上には洗濯物の山。
「いくら忙しくても、ここまでじゃなかったよな」
 会社員時代を思い出して本谷は呟いた。
 週二日は休みがあったから、一日は掃除洗濯にかかっても、あと一日は彼女や友達と出かけたりもした。
 それが今や、彼女には振られる、友達とも滅多に会うこともない、これではいつか孤独死する。
 本気でそんなことを考えてしまう。
 社員時代から住んでいる二DKのマンションは、最寄り駅まで五分、スーパーも近い、病院も歩いて行けるところにある、本谷にとっては住み心地のいい部屋なのだが、浜野はそろそろセキュリティが万全のマンションに越した方がいいという。
「最近、かなり人気でてきちゃってるからね、女の子、甘く見てたら手痛い目に合うよ」
 そんなのまさか、なんて思ってた。
 ついさっきまでは。
「でもあんな事故、俺のせいで、しかも広瀬さんが……容態はどうなんだろ、工藤さんにも聞けないよな、オフィスに電話してみようか」
 何をする気にもなれず、リビングの床に腰を降ろしたまま、ずっとそんなことを考えていた。
 歩道に横たわった良太を抱きかかえる工藤の顔がまた蘇る。
 ぼうっとしていた本谷は、急に鳴り出した携帯の音にびくりと首を竦めた。
「はい、あ、俺は大丈夫ですけど、さっきバスで送ってもらって」
 浜野からだった。

 


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