風そよぐ169

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「申し訳ない。確かにあらゆる想定をして向かうべきだった。特に人通りの多い場所での撮影で……」
 秋山にはそこまで考えが及ばなかったという忸怩たる思いがあった。
 さらに言葉を続けようとした時、「すみません、俺のせいなんです!」と飛び込んできた声。
「本谷くん」
 秋山がやれやれという顔で本谷を見た。
 本谷も居ても立っても居られなくて、来てしまったのだろう。
 亜弓は急に現れた本谷が、頭を下げるのをまじまじと見つめた。
「今朝、俺、遅刻して、広瀬さんにタクシーからロケバスまで連れてってもらったりしてる時、ファンの人たちが押し寄せて、撮影中はおとなしく見てくれてたんだけど、終わったらまた一斉に動いて」
 するとまたドアが開いた。
「ファン心理って、どうにも理解できねぇよな」
 そう言いながら入ってきた沢村の後ろには佐々木がいた。
「こいつのファンでもこいつが悪いわけでもない、ましてや会社側でよその事務所のタレントのファンが暴動するとか、わかるわけないだろ」
 沢村は亜弓に強い口調で言った。
「お前の声は昔から、うるさいんだよ」
「何で沢村がここにいるのよ!」
 頭を下げにきた本谷をほうっておいて、亜弓も負けじと沢村にくってかかる。
「良太の容態を聞きに来たにきまってるだろ! 何で良太がケガしたって、会社に文句言ったところで始まらないんだよ!」
「何よ、えっらそうに!」
「何でってのは、お前の方がよく知ってるだろ! 事故りそうになったやつが目の前にいたら、あの良太がほっとくと思うか?」
 身長差をものともせず沢村を睨み付ける亜弓と女性に対して容赦なく突っかかる沢村の間に、「ちょっと落ち着け、アホ」と入って沢村を窘めたのは佐々木だった。
「お嬢さん、良太ちゃんの妹さんなん?」
 また新たに表れた美貌の主に問われて、亜弓は一瞬言葉を失ったが、すぐに立ち直った。
「はい、亜弓といいます」
「沢村のこともよう知ったはるみたいやね」
「ええ、兄の天敵ですから」

 


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