風そよぐ17

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 本谷は今度こそ身を縮こませて、恐縮至極といった態で、グラスを握りしめている。
 ドラマのプロモーションイベントの時から、どうやら竹野が工藤に取り入りたいらしいのは、良太にもわかっていた。
 撮影に工藤が顔を出した時には、早速声をかけて、自分の演技のことを工藤に尋ねていた。
 それに対して、工藤は「悪くはない。このままいけばいいんじゃないか」くらい言ったろうか、それからもたまに工藤が顔を出すと、竹野はすかさず駆け寄って何か話しかけるのだが、相変わらず工藤は一言二言口にする程度だ。
 どこかの女優のように女を前面に出して工藤に近づこうという性格ではないらしいが、さっきは工藤の方から本谷に声をかけたのだ、これに竹野がカチンときたのかもしれない。
「やっぱ、竹野さん、物言いがきついから、相手が委縮しちゃったんじゃないですか?」
 竹野の隣で、にこやかに言った良太に、一斉に周りの視線が集中した。
 つい、とかうっかり、とかよくあることで、先日も千雪が、自分もたいがい横暴だというようなことを言った時、そうですよね、なんて頷いてしまった。
 普通ならそこは軽く否定しておくのが、うまく世の中を渡っていく術なのだろう。
「何よ、それ、あたしが悪いっていうわけ? あなた、いい根性してるわね」
 竹野は良太を睨みつける。
「いや、いくら事実でも言葉の選び方で相手に伝わり方が違うってことですよ」
 へらっと口にする良太はじっと竹野をみつめた。
「あなたこそド直球で、世の中渡ってくの苦労してない?」
「まあ、そこは軽く否定するところだろとか、たまに言われますけどね」
「あたしは奥歯にものの挟まった言い方は嫌いなの。マネージャとかうちの社長はもっとオブラートに包んだような言い方をとか言うけど、そういうのダメ」
 あの竹野にあんなにはっきりと言い返している、とばかり固唾をのんで事の成り行きを見守っていた周囲は、二人のやり取りに少しほっとしたようだ。
「じゃあ、あたしがきつかったとか言う時は、あなた、教えてよ」
「いや、僕は竹野さんのマネージャーではないので、それは遠慮します」
 良太はそう言ってグラスを傾けた。

 


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