だが良太は、何か違うと思った。
別に社長が自ら来る必要はないが、熨斗がついた紙包みが札束だということくらい、良太にもわかった。
「どうぞ、頭を上げてください。あれは不慮の事故です。御社の責任でも誰の責任でもないですから、こんなことをしていただくわけには参りません」
良太は言ったが、向こうもこうして差し出したものを今さら引っ込めるわけにはいかないこともわからないではない。
「いや、私としても受け取って頂かないと、会社に戻るに戻れませんから、ここはひとつなにとぞ」
浜野はそういうとまた深々と頭を下げた。
「わかりました。ただ今は社長は不在ですので、とりあえずこれは責任を持ってお預かりいたします」
「よろしく、お願い申し上げます」
ようやく浜野は顔を上げたが、汗を拭きながら、ほとほと困ったような顔をしていた。
「どうぞ、おかけになって」
お茶を運んできた鈴木さんが浜野に声をかけたのだが、座るのすらとんでもないというようなガチガチのようすで、「では私はこれで失礼をいたします」とばかりにとっととオフィスを出て行こうとした。
「浜野さん」
良太に声をかけられて浜野は振り返った。
「どちらかというと大変なのは本谷さんではないかと思います。確かに、社会経験もあり、礼儀正しい方ではありますが、この業界では慣れないことも多いのではないでしょうか。会社としては本谷さんに専属のマネージャーなりアシスタントなりをつけていただくわけにはいかないのでしょうか」
しばし浜野は良太の顔をじっとみつめ、ポケットからハンカチを出してまた額の汗をぬぐった。
「はあ、それはごもっともな話なのですが………今回のことで、私ももう一度、上司に訴えてみたのですが………何分、上が決めることでして、はたしてどうなるかはまだ………」
言葉を詰まらせながら浜野はそれだけを口にした。
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