翌日は早朝からまた『からくれないに』の撮影が始まった。
スタジオでは次の殺人事件が起きて、所轄の刑事が現場に臨場するカットなどが撮影され、アスカの出演するシーンが続いていた。
最初の殺人事件と手口やさらに凶器とされるナイフらしきものの形状が一致したことで、容疑者として拘留されていた本谷は釈放されるが、まだ完全に容疑が晴れたわけではないため、刑事に尾行されている、といったカットが続く。
ロケは朝方か夜に行われるが、本谷のロケに対しては、良太の入院中にいち早く工藤の命を受けた秋山が制作スタッフを増員して、本谷のファンが現れても事故や怪我をさせることのないようにと万全の態勢で向かうことになった。
本谷は初めて浜野と一緒に車で現れ、浜野は俳優陣、監督や制作スタッフに改めて頭を下げて回っていた。
「心配することもなかったみたいだな」
「どうかしら。今日はさすがに顔を見せないとって感じじゃない?」
ぼそっと口にした良太の独り言を聞きつけて、腕組みをしたアスカが言った。
次のカットまで出番はなく、二人は隅で撮影の様子を見ていた。
「浜野のもう一人の担当、小佐田亮子ってさ、社長の義理の姪なんだって。だから我儘も通るし、身体が弱いのは確からしいけど、浜野さんになついてるらしいわ。あんまりパッとしないし結構いい歳なのに、お嬢様扱い」
「だったら、本谷くんのマネ、新しくつけてやればいいのに」
「そこが難しいところよね。だって新しいマネがいいやつとも限らないしさ」
「まあ、それはその時になってみないと」
「あそこさ、ミタエンタープライズの、尾野健斗と水嶋ゆりかが看板だからね、他はその他大勢扱いみたい。本谷ももちょっと人気、実力上げないと」
「そうなんですか」
尾野健斗や水嶋ゆりかはともに三十代、どちらもトップテンに入る人気俳優だ。
おそらく、藤堂に負けず劣らず、業界のことなら裏も表も詳しい秋山に聞いたのだろう。
青山プロ関連の仕事ではこの二人にオファーをしたことはないが、数年先までスケジュールが埋まっているという噂なら良太も聞いたことがある。
「本谷、ここが正念場よね。第一関門突破すれば、ちょっとは待遇もよくなるかもよ」
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