風そよぐ186

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「だったらほんと、頑張ってもらわないと」
 アスカはそんな良太を見てくすりと笑う。
「なんですか?」
 良太はアスカを振り返った。
「だから良太好きよ」
「意味不明!」
「明日は高雄に行くんでしょ?」
「ええ、まあ」
 あんまり喜んでいるのを表に出したくはない。
「桧山匠ってさ、知ってる?」
「ああ、能楽師の? 俺も予備知識しか。能楽のシテ方狩野流家元の次男で家を飛び出して自己流で新しい能楽師を目指してるとか。確か宗家は鎌倉にいるって」
 アスカは「それは表向き」という。
「何、また、何か裏があるんですか?」
「当り前よ、芸事とかには必ず実はってのがつきものなの。桧山匠は実は幼少の頃から天才って言われてて、でも宗家には長男がいたのよ」
「嫌だな、また、それ、お家騒動とかじゃないですよね?」
「そのものよ」
「実は桧山匠は婚外子とか? それで家を出たとか」
「逆なんだよね、それが。嫡出子として届けられてるけど婚外子は長男で、宗家の愛人の子供だったのよ。奥さんに子供がなかなかできなくて、その子を次期宗家として引き取ったんだけど、そしたら次男が生まれて、これが天才児だったってわけ」
「うわあ、事実は小説よりってやつ?」
「どうやら家の中は匠を押す派と長男を押す愛人派の対立とかでドロドロだったみたい。で、匠はそういうのが嫌で家を出て、亡くなった母方の家、これがまた由緒ある名士で跡継ぎがなかったもんだから祖父の養子になっちゃったのよ。それが桧山家。それでね……」

 


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