風そよぐ187

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「わあ、もういいですよ。沢村んちのゴタゴタ聞いただけでも腹いっぱいってとこだったし、宗家を継ぐ継がないの争いとかミステリーじみた話はもう」
 良太は首を横に振った。
「だからさ、ユキ経由で出演決まったんだって」
「へ? そうなんですか?」
 それはちょっと聞きづてならなかった。
 小林千雪の関係者?
 せっかく工藤に会えるのを、いや、高雄行きを楽しみにしてるのに、今度は千雪関係?
「まあ、とにかく、どんなすごい人なのか、見ておいでよ。私も気になってるんだよね」
 アスカのお陰で桧山匠のあれやこれやをタブレットで片っ端から拾いながら、良太は翌日の午前十時にはまた新幹線京都駅のホームに立っていた。
 タクシーで高雄に向かって約一時間。
 いつぞや手を振って迎えてくれた奈々が、今日もまた、「良太ちゃーん!」と呼びながらかけてきた。
「ああ、よかったあ、元気そうで。怪我したって聞いて心配したんだよ」
「ありがとう。もうこの通り、元気いっぱい」
「今日、こっち来るって聞いたから、退院祝い」
 奈々がはい、と差し出した紙袋を覗くと、ラッピングした透明の袋に、クッキーが入っている。
「え、これ、もしかして、手作り?」
「うん、お休みもらったから、いろいろ作っちゃった!」
「ありがとう。嬉しい」
 何だか瞼の奥が熱くなりかけた。
「良太」
 危うくこぼしそうになった涙も、鬼の一声で止まるというものだ。
「あ、お疲れ様です」
 工藤の横には志村と小杉、そして良太より少し目線が下がるほどのほっそりとした青年が立っていた。
 青年というのは予備知識があったからで、少し長めの黒髪を後ろで束ねたその人は一見するとお人形のような可愛らしさというか綺麗さがあり、何か儚げと思えるような気配を漂わせていた。
「うちの広瀬良太、能楽師の桧山匠だ」
 工藤は簡単に両者に紹介をした。
「はじめまして、広瀬です」
「桧山です」
 きりりとした言葉に、良太はお人形さんのようと思ったことを心の中で訂正した。

 


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