風そよぐ188

back  next  top  Novels


 その時、ちょうど昼を予約してあるのでこれから向かうことになっていると監督の日比野が言った。
「高雄でもまたロケはあるんだが、今度は嵐山の方でも撮る予定でね」
 予約をしている料亭へと向かう車の中で、日比野は良太に説明する。
 小杉の運転するベンツGLSの後部座席には志村、良太、日比野が乗り込み、工藤はナビシートに乗っていた。
「竹林とかは行ったことがありますけど、ほんの一度だけで」
「そうか、今回はじっくり体感するといいよ。ほんとに京都という町は面白いよ。どこに行ってもさらっと見ただけではわからない、二度三度と見るうちに、奥にある何か得体のしれないものを感じ取ることもよくあるからね」
 真ん中に座る良太は、熱心にこれからの撮影について語る日比野の言葉に耳を傾けた。
 この車は最近志村が購入したもので、安定性があり、ロケなどに荷物を運んだりするにも楽だし、七人までは乗れるという広さで決めたらしい。
 谷川の運転するレジェンドには奈々と桧山、脚本家の浅沼が乗っている。
 その後ろを撮影クルーのバンがついてくる。
 日比野の話では桧山はどこの事務所に属しているというわけではなく、全く一人で活動をしているという。
「いや、小林先生には感謝だね。桧山くんのような人をご紹介いただいて。ほんとに、何て言うんだろう、彼は東京の人なんだけどね、彼の舞踊、というか、舞、だね、彼の舞にはまさしく安倍晴明が宿ったんじゃないかという見るものを圧倒する凄まじいたたずまいがあってね、とにかく必見だよ」
 桧山の特に舞を舞うシーンでは、むしろ本家の桧山に委ねるカットが多いという。
 桧山と何度か打ち合わせをし、桧山の提案で動きを決めていく。
「彼は幼くして天才能楽師と評判になって、高校あたりでは実際右に並ぶものがないくらい三番目物や四番目物、特に羽衣なんかでは優美幽玄の極みとか言われていたようだよ。その天才性から彼に宗家を継がせようという者と長男に継がせようという者が対立してね、彼はそれを嫌がって家を出て、大学からニューヨークに行って、その後、独自の能楽師として活動を始めたそうだ」
「はあ、何かそういう芸術の天才って、俺とは違う世界に生きてる人って気がしますけど」
 良太は軽く言った。
「いや、彼は演技を離れたら普通の人だよ。結構、ざっくばらんだし」
 右隣に座る志村が笑った。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます