慌てて注ぎ返そうとしたが、「あ、俺は運転するから、奈々ちゃんと同じね」とウーロン茶の入ったグラスを掲げた。
「え、俺、運転代わりましょうか?」
「気にしない気にしない。良太ちゃんが東京と京都をまたにかけて八面六臂の大活躍をしてくれるからこそ、うちの会社はもってるんだからさ」
「おだてても何もでませんよ~」
「ちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃない? 事故のこともそうだけど、近頃社長の後を追うみたいにワーカホリックになってるから、みんな心配してるんだよ」
斜め向かいに座る志村が言った。
「ありがとうございます。でもあのオヤジと一緒にするのはやめてくださいね」
にっこり笑って良太は言った。
「良太はすごいエリートなんだ?」
いきなり信じられないような言葉をぶつけられて、良太は目の前に座るお人形のような顔の主をまじまじと見た。
しかも、初めから良太呼ばわりかよ。
まあ、そんなのは今までも高飛車な女優俳優連中で慣れているというものだ。
「とんでもないです。エリートなんて言葉とは到底かけ離れた存在ですから。うちの会社ではもう運転手からデスクワークから何から何までやってる何でも屋的存在で。桧山さんは東京のご出身なんですよね?」
極力謙遜して自己紹介をしたつもりの良太だったが、桧山は、「匠だ」と、ぽつりと返してきた。
「え?」
「俺は匠でいいっての。あのさ、日本人の謙虚さってのは全面否定するわけじゃないし、時に人間関係を円滑に進めるための手段としては有効だとは思うけど、確かT大出てるって聞いたから、T大出てるなんてエリートじゃないのかって思って」
志村の言う通り、非常にざっくばらんな人らしい。
「ああ、いや、どんな大学出てても、仕事ができる人じゃないとエリートとは言わないですよ。俺、大学では野球ばっかやってて卒業もやっと、この仕事もやっと面白いかもって思えるようになったくらいで」
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