風そよぐ192

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 難しい家に生まれたからこその不自由もあったわけだ。
「ヤンキースですか?」
「いんや、ヤンキースってえばってるじゃん、俺はメッツ応援してた」
 ちょっと捻くれてるところもあるのか。
「俺こそ羨ましいですよ。MLB見られるとか」
 良太はいつの間にか匠と二人で話が弾んでいたことに気づいて苦笑する。
「そういえば、小林先生のお知り合いなんですか?」
 しばらく鱧しゃぶを堪能していた良太は、思い出したように匠に聞いた。
「ああ、千雪のことか? まあ、俺は……千雪のダチの研二と知り合いで、それで千雪とも会って、今回の仕事、日本舞踊家を探してるらしいからやってみないかって言われて、それで高広に紹介してもらったんだ」
 途端、良太は鱧がのどに詰まりそうになった。
 タ・カ・ヒ・ロ!!!???
 高広だと?!
 工藤をそう呼ぶのはこれまで、工藤と関係のあった女たちだ。
 イタリアの加絵、ルクレツィア、それに佳乃さんだ。
 佳乃さんは、高広さん、だし、ひとみさんはもう工藤とは戦友みたいな感じだから許すとして、俺だって高広なんて呼んだことないのに!
 まあ、工藤、とか呼んだりはしてるけど。
 ってか、いくらニューヨーク帰りっつったって、俺を良太とか呼ぶくらいどうってことはないさ、けど、高広ってさあ。
「あ、正明、午後は何時までだっけ?」
「えっと、とりあえず五時ってことになってるね」
 正明? って、誰だよって小杉さんか?
 名前なんか呼ばないから一瞬わからなかったじゃないかよ。
 何? 俺がジャパニーズ過ぎってこと?
 でも小杉さんを正明とか、今さら呼べないぞ。

 


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