背中のリュックには下着くらいは入っているが、クリーニングに出すつもりでスーツの着替えは持って来ていなかった。
夏だから、Tシャツくらい買えばいいか。
でもチェックインだけでもしてくればよかった。
そんなことを考えながら工藤の後について歩いた。
「どうします? そろそろ暗くなってきたし、服ちょっと乾いたら、またタクシー拾いますか?」
「腹が減ったな」
「はあ……確かに」
言葉にされたら急に空腹を思い出した。
しばらく歩くと、工藤はかなり立派な門構えの和風な建物に入っていく。
「え、ここで食事するんですか?」
中もえらく高級そうだぞ。
傘を傘立てに置いて、工藤はフロントに行くと、「植田さんいらっしゃいますか? 工藤と申しますが」と年配のフロントマンに言った。
「少々お待ちくださいませ」
フロントマンがそそくさと奥へ入っていくと、やがて和服美人と一緒に現れた。
「まあ、工藤さん、おこしやす」
にこやかにだがきりりとした声で、和服美人は親し気に頭を下げた。
「おかみ、すまない、雨に降られてね。部屋は空いていないか?」
良太は、えっと工藤を見上げた。
「へえ、今日は一杯で、一つだけしか空いてないんですが、よろしおすか?」
「ああ、かまわない」
おかみはまたにっこり笑って、工藤と良太を案内してエレベーターに乗った。
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