「それ、バカにしてます? まあ、確かに、匠さんとか見てると、生まれるべくして生まれたみたいなものがありますよね。でも、よく飛び出せましたよね。反対されなかったのかな」
「されただろう。だが、それ前に祖父が養子にしてしまったから、後の祭りだったようだ。何より本人が、家や父親を嫌っていたらしい」
「ふーん。沢村も自分の親とか嫌ってたけど」
「お前はそんなことわからなくていいさ。幸せな家庭に育ったんだ」
良太には工藤が本心からの言葉だという気がした。
境遇や家族のことなど、人それぞれで比べるべきものなどないのだろうが、工藤の場合、母親は自死、父親は米軍人とだけしかわからない、しかも祖母の夫は暴力団組長など、どこにでもある話ではない。
借金を背負っていようと、自分の家族は元来能天気な幸せな家族なのかもしれない。
やがて膳を下げに来た中居と一緒に、女将が既にクリーニングされたスーツや洗濯ものを持って現れ、おそらく特急で仕上げてくれたのだろう、手際よくクローゼットにしまった。
「ほな、ごゆっくり」
退室する際、女将に朝食は何時にと問われて、工藤は九時にと遅めの時間を指定した。
今更ながらに、良太は、ひょっとして工藤は良太の快気祝い的な、ご褒美的な意味でこんな豪勢なところに連れてきたのだろうか、という考えがよぎった。
でも雨が降ったからとか言ってたしな。
残してあった冷酒を工藤がまたグラスに注いでいると、携帯が鳴った。
「ああ、こっちは順調だ。そっちはどうだ」
おそらく秋山だろう、しばらく仕事の話をしている工藤の向かいで、手持無沙汰の良太は冷酒をちょっと飲み、一緒に置いていってくれたチーズをつまんだ。
と、ややあって良太の携帯も鳴った。
「おう、今、京都。え、俺に聞くなよ、お前まさかまた佐々木さんを怒らせたんじゃないだろうな」
沢村である。
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