風そよぐ212

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「渡月橋見た?」
 空いている席に座ると匠が声をかけながら隣に座った。
「渡月橋、ですか? まあ、何回か見てますが」
「あの橋もシーンの一つなんだが、今一つ、しっくりこないとこがあるんだよな」
「そうなんですか」
「なんか、今日、良太、血色よさそう」
「へ?」
 仕事の話の流れでいきなりそんなことを言われて、良太は一瞬焦る。
「こっちにきてからゆっくりさせてもらってるから」
 夕べ温泉でしっぽりしてました、とか、匠の妙に得体のしれない視線に暴露されそうで何やら怖い。
 この打ち合わせから、重要な役でベテランの俳優が加わることになっている。
 安倍晴明を研究している大学教授という役どころだが、時間まであと数分というところでようやく現れた。
 良太は会うのは初めてだが、確か七十代後半といっても、動作も表情も年齢より若々しい。
 橋本祐三、年齢が年齢だけに、少々気難しいところもある、とは秋山情報だ。
「良太」
 工藤が呼んだ。
「うちの広瀬良太です」
 工藤は早速橋本に良太を紹介した。
「よろしくお願いします」
「新人さん? この子どのあたりで出てくるんでしたっけね、本にありましたっけ?」
 またぞろ勘違いされてしまった。
 だがしっかり全体を把握している、さすがに大物俳優だ。
「いや、すみません、私の後継で、私がいない時には広瀬を呼んでください」
「おや、そうなの? それは失礼しました。よろしくお願いします」
 工藤の説明に頭を下げられて良太も慌ててぺこりと頭をさげる。
「こちらこそ、行き届かないこともあると思いますが何でもおっしゃってください」
「頼もしいね」
 笑顔の優し気な俳優さんだが、何か面倒なことがなければいいけど、と良太は思う。
 でもなんか、工藤の後継とかって、ちょっと嬉しいかも。
 って、へらついてられないってことじゃんね。
 

 


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