風そよぐ27

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 『田園』の撮影は順調に進んでいた。
 本谷と竹野の絡みはあれ以来ほぼないし、竹野も何となく棘を出さなくなっているようになっていると、良太はアスカからも伝え聞いていた。
 『パワスポ』の会議の帰り、三日ぶりに良太がスタジオに寄ると、ちょうど病院のシーンの撮影で、本谷がミスをしてアスカが本谷をいじるところだった。
 このドラマでは、ひとみは主人公の妻であり、美人の外科医できついが明るい、というまるでひとみの性格そのもののような役どころだ。
 ただ、病院長の娘であり、夫にはいずれ院長としてしっかりやってもらいたいと思っているのだが、夫は外科医としては優秀だが、経営には向いていないだろう性格もよくわかっていて、夫に向かってそこが悩みのタネだというようなセリフがある。
 子供はいないが、結婚して十年目、仲がいい理想的な夫婦と周囲から見られているものの、今一つ夫に愛されている確信を持てないでいる、そんな女の顔を時折後輩役のアスカに見せる。
 そういった二人の微妙な心の危うさをもった掛け合いは、良太もさすがと言わざるを得ないものがあった。
 こういう時はアスカさん、すごいって思うんだけどな。
「広瀬さん、お疲れ様です」
 ぼんやり二人のやり取りのシーンを見ていた良太は、後ろから声をかけられて振り返ると、本谷が立っていた。
「あ、お疲れ様です、本谷さん」
 本谷はどうやらプライベートでもどちらかというと真面目で、営業マンだったというだけあって礼儀正しい好青年らしい。
 俳優だと目立ちたがりの大澤流のようなオラつくタイプは多いが、逆に物静かで演技になると人が変わったように役に憑依するというタイプもあるが、どちらかというと本谷は後者だ。
 確かにまだスタートを切って間もないところにいるわけだが、性格が百八十度変わるようなことはないだろう。
「どうですか? 撮影は」

 


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