「良太ちゃん、ちょっと今日はもう帰った方がいいな。疲れがたまってるんだろう」
挙句には言葉はやわらかいが、それじゃ仕事にならないとダメ出しされた。
部屋に戻って、猫たちにご飯をやって、風呂に湯を張って身体を沈めると、ようやく良太は自分が少し戻ってきたように感じた。
「何で………」
本谷が工藤の車に乗っていたんだろう。
おそらくちょうど工藤の行く方へ本谷も用があったのだ。
きっとそうに違いない。
本谷のマネージャーは、そろそろベテランの域に入ったうるさ型の女優も担当しているため、もちろん本谷のバックアップに手を抜いているわけではないが、新人とはいえ本谷が社会人から入ったしっかり者だとみていて、都内であれば送り迎えは滅多にせず、本人に任せているらしい。
タクシーなど使わずに電車や地下鉄で動くことも多いようで、良太も地下鉄の階段を降りていく本谷を見かけたこともある。
だから工藤も電車で帰るらしい本谷に声をかけたんだろう。
普通なら、それも十分ありな理由だ。
ただ。
工藤に限っては、そんな親切なオジサンだったことなんかこれっぽっちもなかった。
唯一、千雪を除いては。
でも、本谷は千雪ではない。
「しかも、車は別々で、ってこのタイミングで?」
一人で考えてたってらちが明かない。
だったら、工藤に直接聞けばいいじゃん。
アスカの言う、ド直球で。
けれど。
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