「レッドデータ、進んでいるか?」
「はい、制作の方はヤギさんの力の入れように周りが息を切らしてますけど。CMの方は来週、撮影に入ります」
「そうか、そっちに気を取られて『パワスポ』も手を抜くなよ」
いつものごとくそっけなく言うと、工藤はたったかオフィスを出て行った。
どれだけ忙しくたって、会いたければ会うだけの話だ。
もし、好きだったら会いたいに決まってる。
「良太ちゃん、どうかした?」
うっかり、工藤の去ったドアをしばらく見つめていた良太は、鈴木さんの声に我に返った。
そうだよな、俺は、仕事に来てるんだし。
「良太ちゃん、お昼買ってくるけど、どうする?」
「あ、いいですか? お願いして」
「じゃあ、またまるねこさん、行ってくるわね」
「俺、今日のお任せで」
「了解!」
ここ数日、外ばかりだったので、鈴木さんと昼を食べるのも久しぶりだ。
鈴木さんも良太のことを心配してくれているのはよくわかっていた。
そうだ、俺は仕事にきてるんだ。
良太はもう一度自分に言い聞かせた。
工藤が誰と付き合おうと、本谷とどうなろうと、俺には関係ないことだ。
風がそよぎ始めた。
夕方から雨だと、車の中で天気予報を聞いたのを良太は思い出した。
曇天の空が、良太の心の中にも広がっていった。
back next top Novels