風そよぐ38

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 下柳との仕事は時々停滞した。
 過ぎる程の下柳のこだわりのせいで、スタッフとぶつかることは二度や三度ではなく、その際、間に入るのが今や良太の仕事のようになっていた。
 制作そのものより、そういったスタッフ同士のもめごとの方が疲れが倍増した。
 レッドデータの番組全編にわたってスポンサーである東洋商事のCMが使われるが、番組と連動した「鼓動―生きていること」がテーマとなっている。
 番組で撮影された動物たちの映像も取り入れ、外で暮らす猫たちから下町での生活や日本海での漁業風景のロケが予定されている。
 ナレーションはベテラン俳優の尾野久司に依頼されている。
「石川県の珠洲市? まあ、お魚の美味しいところよね」
「ええ、いわしとかあじとか、漁業風景のロケなんです。俺は一泊だけですけど、同行することになってて」
 良太がオフィスで鈴木さんとまったりお茶をするのも久しぶりのことだった。
「おう! 良太、何か、久しぶり!」
 賑やかにオフィスのドアを開けたのは、小笠原祐二だった。
 その後ろから、カートを抱えたマネージャーの真中が続いて入ってくる。
「お疲れ様。どうでした? 南の島のロケ」
 鈴木さんが二人に珈琲とクッキーを持ってきて、テーブルに置いた。
 小笠原は来年封切られる予定の映画のロケで、一か月ほど島根県の隠岐の島に滞在していた。
「よかったよ! 撮影も最高によくて、監督優しいし。はあ、でも疲れたあ!」
 ソファにドカッと腰を降ろした小笠原は、無精髭も逞しく肌もいい色に焼けている。
「今日から数日オフだろ? ゆっくり休めばいいじゃん。真中も」
 真中はマネージャーというより、小笠原の付き人のように連れまわされているから、良太はソファの端に遠慮して座る、疲労の色が如実な真中をねぎらった。

 


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