大澤はそこでマネージャーに呼ばれて行ってしまったが、良太は、何でこんなに本谷のことを弁解してるんだろう、と自分でも首をかしげる。
だが、今自分で言葉にしてから、工藤が本谷を俳優として成長する器だと認めたのだろうと、不意に思い知る。
工藤はダメだと思う者に対しては辛らつだが、滅多に人を褒めそやしたりしない。
ただ、認めている人間に対しては何も言わない。
現に、主に竹野と折り合いが悪いという理由であれだけキャスティングが難航しても、竹野の演技を認めているから何も言わないのだ。
俺なんか、これに商品価値がどこにある、だもんな。
ちぇ、わかってるって、俺なんか俳優とかやるような器じゃないって。
あーあ、俺にちょっとでもそんな気配があったら、本谷みたいに、見守ってやろうとか思ってくれたのかな。
とか。
「あ、すみません、千雪さん、行きましょう」
大澤のせいで千雪をぼっと突っ立たせていたのだった。
「ああ、良太、お前、大丈夫か?」
「え、何がです?」
「何か、お前、やっぱおかしいで。疲労だけやのうて、何かあった?」
これだから、千雪は妙に鋭い。
「ありませんよ。いや、ほんと、スケジュール手一杯で、あ、でも明日能登に行くんですよ。仕事ですけどね。でも温泉で一泊するし、魚も旨そうだしちょっと楽しみなんです」
笑顔を取り繕う術をもう少し養うべきだろう。
良太は一瞬ひきつってしまった笑いを取り戻すのにてこずった。
「あの、広瀬さん」
エレベーターを待っている時に、またしても良太は声をかけられて振り返る。
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