風そよぐ49

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 広瀬なんて呼んでくれる人には礼を言いたいくらいだが。
「はい、何でしょう、本谷さん」
「また、よろしくお願いします。なんか、今度はすごく重要な役で、俺、ちょっと頑張んないとって」
 うーん、やっぱりこの人は真面目で素直なんだ。
「だーいじょうぶですよ。何しろ、本谷さん、原作者のこの小林先生がお名指しされたんですから」
 千雪はそこで初めて、あっと思いだしたようだ。
 疲労困憊の二人でオフィスでグダグダやっていた時に、良太がテレビをつけるから、この人って指で指し示せというので、ノリでやったのだが、ほんとに良太がキャスティングしてしまったのかと。
「え、ほんとですか? あ、すみません、小林先生、申し遅れました、私、Nプロダクションの本谷和正と申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
 一瞬、明るい笑顔を見せてから深々と頭を下げる本谷に、千雪は「はあ、よろしゅうに」と返す。
 エレベーターが開くととりあえず三人一緒に乗り込んだ。
「本谷さん、今日もおひとりなんですか?」
 黙っているのも気まずくて、良太はたずねた。
「ええ、今日はもう帰るだけなので……。あの……」
「はい?」
「工藤さん、ずっと京都なんですね」
 エアコンよりも低く、すーっと良太の中で冷えていくものがあった。
「え、ええ。もうあのオヤジと来た日には、こっちの仕事は俺に丸投げですからね。じゃ、お気をつけて」
「ありがとうございます」
 一階で降りる本谷にそう声をかけると、エレベーターの閉じるボタンをすぐに押す。
「まったく、彼の演技云々言われても、俺は知らんからな。何が、原作者のお名指しや」
 エレベーターで二人になると、途端千雪は文句を言った。

 


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