「カンパーイ」
今日は俺のおごりだ、と小笠原は景気よくビールの入ったグラスを掲げた。
良太ものっそりと小笠原のグラスに自分のグラスを当てる。
小笠原がタクシーでやってきたのは、昔はよく来たという三軒茶屋の二四六から一本入ったところにある、静かなイタリアンダイニングバーだ。
二階の奥はパーテーションで区切られていて、落ち着いた雰囲気だ。
木の形をそのまま生かしたようなテーブルや椅子は、オイル塗装をして深みのある色に仕上げてある。
「俺、メシまだだからさ。良太は?」
アンティパストをつつきながら、小笠原は聞いた。
「ああ、俺もまだ」
「だったら、ここのピザうまいからあとで食おうぜ。その前に適当に頼んじゃっていいか? お前食いたいものあったら、言って?」
「たいていのものは食えるし、まかせる」
トマトとアンチョビのサラダやサーモンのカルパッチョなど、小笠原はパパっといくつかのメニューとワインをオーダーした。
リストランテのような気取ったメニューではなく、もっと気軽に食べられて飲める、どちらかというと客層でわかるように若者向けのリーズナブルな店だ。
「夕べさ」
約一カ月余りの南の島での生活や撮影のこと、島の住民とすっかり仲良くなって、真中と二人で島中探検したことなど、ひとしきり話してから、小笠原は唐突に切り出した。
「満を持して、やっと彼女に連絡したわけさ」
「満を持してって、ちょっとニュアンスが違わないか?」
「いいんだよ、そんな細かいことは。まあさ、わかってたことだけど、ごめん、って言われた時は頭ン中真っ白」
ハハハと小笠原は力なく笑う。
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