風そよぐ53

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「だろー、だろー? 俺、いい俳優んなってきただろ? それがチョーあったまくるのがさ、真中のヤロー!」
 急に思い出したように小笠原が語気を荒げた。
「真中? あいつも結構真面目によくやってくれてるだろ? 何かあったのか?」
「それがさ、こっちは彼女と首の皮一枚って時に、あのヤロー、こそこそ彼女とラブラブコールなんかしやがってさ」
 良太は笑った。
「へえ、あいつ、彼女いるんだ?」
 真中も青山プロダクションに来たばかりの頃は、ネクラで言葉も少なく、むっつりしていて、しかも体つきは自分を棚に上げていえば、ヒョロヒョロもいいところだったと、良太は思い起こす。
 それが徐々に曲がりなりにもいっぱしのリーマンのように、スーツもそこそこいたについてきて、小笠原に引っ張りまわされながらも、最近頑張っているなあと思っていたのだ。
 何せ、良太にとってみれば、俳優陣や谷川のような中途採用者を除けば、初めての唯一の後輩なのだ。
 何かなければ入社なんかする者がない、万年人手不足の青山プロダクションに入ってきたというからには、真中にもそれなりの事情があったわけで。
「あいつ、オヤジがそういう業界がらみで亡くなって身よりなくって、しかもそういう素性だから正社員とか難しいってとこで、うちに入ってきたんだろ? 何か、島でいろいろきいたところによると、工藤がやくざとか言ってる連中に、そうじゃねえ、これがやくざの世界だ、みてぇな世界で暮らしてたらしくてさ」
 小笠原は唾を飛ばさんばかりに力説する。
「さすがにあいつはタトゥなんか入れちゃないが、オヤジさんはバリバリのヤクザだったみてぇで、ガキの頃はアパートにもそういう連中がよく出入りしてたんだと。おふくろさんもそういう世界の人だったらしく、スナックかなんかやってたところへ、任侠沙汰でオヤジさん、刑務所行きになっちまって、真中はそれから音信不通になったって思ってたらしいけど、実はムショにいたんだと」

 


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