風そよぐ76

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「はあ、俺、ほんと酒に飲まれてますね、最近」
 良太は苦笑いして首を傾げる。
「けどさ、いいんじゃない? 会社の社員寮? なんだっけ? 今住んでるとこ。そろそろ環境を変えてみれば。ここなら部屋も余ってるし、シェアするのにはもってこいじゃない?」
「いや、……もってこいって、こんなすごい部屋、俺、とてもシェアなんて無理ですよ」
「家賃は一万円でいいって言ったよね?」
 真顔で見つめる宇都宮に、良太は少したじろいだ。
「そ、それはいくら何でも……」
 冗談じゃなく、人気イケメン大俳優とルームシェアとか、それこそ映画の中の話じゃあるまいし。
「俺はさ、結婚とかしそうにないし、このままこのだだっ広い部屋に一人ってより、良太ちゃんが猫ちゃん連れで来てくれると、それだけで心の平安? 部屋に帰るとするじゃない、すると誰かがいるって、結構憧れなんだよね~」
 お茶目に眉を動かして、宇都宮は力説する。
「それは、でも、結婚とかは別としても、例えば、恋人と住むとか」
「いないし。振られたから」
 段々、ぐいぐい迫ってくるような宇都宮の物言いに良太は何やら気圧される。
 独り立ちして、一人前になるために、今の環境を飛び出すというのは、確かに最近良太が考えていたことだった。
 ただ、それがこの部屋にそんな破格な家賃で置いてもらうというのは、工藤の恩情でほぼただで今の部屋に住まわせてもらっているのと変わりないことになってしまうし、何より、
 人気俳優である宇都宮と同居というのは、余りにも想定外の話だ。
「良太ちゃんが今の仕事に満足してやってるのなら、勧めたりしないけどね。坂口さんて口は悪いし、半分冗談かと思うようなことも言うけど、結構マジだったりするんだよ。君が以前にドラマに出ていいセンいってたとかってのもウソじゃないと思う」
 またその話か、と良太は思うのだが、宇都宮からあらためてそんな風に言われると、不思議とすっと言葉が入ってくる。

 


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