風そよぐ77

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 だが、以前鴻池の口車に乗って痛い目にあったことを思うと、金輪際ドラマとか俳優とかなんてできるはずもないと自分を叱咤する。
 鴻池はほんとならもう二度と会いたくもない男なのだが、会社のスポンサーで工藤の恩ある先輩ということで、しかも厚顔無恥というか、良太のことなど、へとも思っていないというか、仕事でほんのたまに顔を合わせることがあるが、にこやかに笑いかけてくるそれが未だに不気味だ。
 まあ、あの男は工藤に執着しているだけで、それは恋愛感情とか親愛の情とかそういうものとは微妙に違うだろうと思うのだが、工藤が一言いえばいくらでも金を出すし、こちらから頼みもしないのに、次の映画のスポンサーに立候補してくるといったそんなところだ。
 これまでも見返りを求めるようなことはしないし、口を挟んでくるようなことも今のところはないのだが。
 いずれにしろ鴻池と工藤のことは、良太には何の関係もないことなので、良太も何も言わないでいる。
 結局のところ工藤のことをあれこれ心配したところで、俺には関係ない、だもんな。
「もちろん、工藤さんは、良太ちゃんにとって、大恩ある社長さんなんだろうけど、工藤さんがさ、君に見い出せなかったものを、誰か別の人間だったら見い出せたりするかもって」
 良太は視線を宙に走らせ、宇都宮の言葉が心の中に刺さるのを感じた。
 工藤が俺に見い出せなかったもの………。
「夕べ本谷くんのこと話してたよね。出るたびに輝きが増してるって、良太ちゃんも。ひとみさんも時々ハッとするような風情を感じることがあるって」
 本谷の名前が出てくると良太の中でまたせめぎあう感情があった。
「工藤さんも彼のこと気にかけてるみたいで、こないだの飲み会の時も熱心に励ましてたよ」
 良太は宇都宮を見つめた。
 工藤が……本谷のことを気にかけて………やっぱね………
 身体中の血液がざあーっと急激に下降しているような気がした。
 だから俺に丸投げしているものの、本谷が気になって、『田園』の撮影、妙に顔出してたんだ。

 


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